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受動喫煙と労災の業務上疾病に関する裁判例


受動喫煙が原因で発症した頭痛が、労災と認められるか?を判断した裁判例を紹介します。

東京地裁平成25年11月27日判決

 職場の受動喫煙が原因で頭痛を発症したとして、労災申請を行った事案です。裁判所は、慢性受動喫煙症の診断基準を満たしていない等を理由に、労災と認めませんでした。

事案の概要

 原告は、昭和38年生まれの男性であり、昭和61年4月1日に本件会社に入社し、システムエンジニアとして、主に本件会社の顧客である企業の事業所等に配属された上で、コンピューターのソフトウェアを開発する業務に従事していた。

 原告は、平成5年5月から平成6年4月までの間、本件会社の顧客であるA社に配属された。A社は、喫煙をする労働者に対し、喫煙所を設けた上で喫煙所以外での喫煙を禁止することなどにより、労働者が室内又はこれに準ずる環境において、他人の煙草の煙を吸わされること(なお、受動喫煙において吸い込む煙草の煙は、主に煙草の点火部分から立ち上る副流煙であるが、喫煙者がいったん吸い込んだあとに吐き出す呼出煙(「吐出煙」ということもある。)を吸い込むこともある。)を回避できるようにする分煙措置をとっていなかった。

 原告は、A社での配属勤務を終えた後、平成9年10月までの間は分煙措置のとられていない複数の職場で勤務することがあったものの、同年11月以降、本件会社を退職する平成20年1月31日までの間は、分煙措置のとられている職場で就労した。

 原告は、平成19年12月7日、喫煙者が近くに来ると頭が痛くなるとの症状を訴え、B病院を受診した。同病院のP4医師は、原告の傷病は環境要因による頭痛であると診断した。
 さらに、原告は、同月12日、C病院を受診し、同病院の医P5医師によって、「頭痛、化学物質(タバコ)過敏症、急性再発性受動喫煙症」であると診断された。

 原告は、平成20年1月31日、本件会社を退職した。原告は、平成22年1月28日、労災保険法に基づき、本件処分行政庁に対し、本件会社での勤務時に、分煙措置のとられていない職場でした受動喫煙が原因で、化学物質過敏症及び急性再発性受動喫煙症(具体的な症状は頭痛である。)を発症したとして、療養補償給付たる療養の費用の支給を申請した。これに対し、本件処分行政庁は、本件疾病は、労働基準法施行規則35条及び同別表第1の2第4号9に定める「1から8までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」に該当しないとして、平成22年9月9日付けで本件不支給処分をした。
 原告は、本件不支給処分を不服とし、同年10月26日付けで東京労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、東京労働者災害補償保険審査官は、平成23年1月31日付けで同審査請求を棄却する旨の決定をした。
 原告は、同決定を不服として、同年3月18日に労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、労働保険審査会は、同年10月21日付けで同再審査請求を棄却する旨の裁決をした。

裁判所の判断

 裁判所は、以下のように、労災とは認めませんでした。

 P5医師は、平成19年12月12日、負傷年月日を平成4年頃として、原告が急性再発性受動喫煙症に罹患しており、原告の頭痛はその一形態であると診断した。これは、委員会診断基準に従い、再発性急性受動喫煙症を発症しているとするものと解される(なお、P5医師は、上記診断において、原告が化学物質過敏症に罹患しているとも診断しているところ、委員会診断基準においては、化学物質過敏症は、慢性受動喫煙症に属するとされているが、慢性受動喫煙症と診断するためには、煙草煙に曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンが検出される必要があるとされているにもかかわらず、P5医師は上記診断に当たって検査を行っていないから、仮に、委員会診断基準に依拠したとしても、上記P5医師の化学物質過敏症との診断結果をもって、原告が、委員会診断基準にいう慢性受動喫煙症に罹患していたと認めることはできない。)。
 受動喫煙が健康に与えるリスクの評価は、受動喫煙により体内に摂り入れる化学物質の種類は数千種類以上と推定されること、副流煙、呼出煙ともに、その濃度は放出された環境の影響を強く受けること等の理由により、なお未解明な部分が多いとの指摘もあるところ、委員会診断基準は、急性受動喫煙症の診断を行うには、非喫煙者が煙草の煙に曝露した事実があれば足りるとする、受動喫煙と症状発生との間の機序の点を踏まえないものであって、業務起因性の有無を検討するべき疾病を特定するに当たって用いることが相当であるかどうかとういう点については、疑問が残るところである。
 また、この点をひとまず措くとしても、P5医師の診断によって、原告は、委員会診断基準にいう慢性受動喫煙症に達していない急性再発性受動喫煙症(委員会診断基準にいう再発性急性受動喫煙症)と診断されているのであるから、委員会診断基準では、三つの要件が診断のために重要ということになる。そして、原告が受動喫煙症による頭痛が発症したと主張する分煙措置がとられていなかったA社における勤務期間中である平成5年12月頃、原告は、朝から頭痛がして、症状が改善しないことを理由に、週1日程度、仕事を休むようになった。原告は非喫煙者であり、通常、自宅において受動喫煙に曝露することはないと考えられるのであるから、上記の原告の頭痛については、委員会診断基準によっても、上記要件のうち(疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する、また、受動喫煙の環境下になければ、いつまでも無症状である。以下「委員会診断基準要件〔2〕」という。)を満たすものとはいえない(上記の原告の頭痛が、委員会診断基準にいう慢性受動喫煙症によるものであると認めることができないことは前記のとおりである。)。
 以上によれば、P5医師の診断結果をもって、A社での勤務中の受動喫煙により頭痛が発症し、以後、これが増悪しながら継続し、平成19年にP5医師から診断を受けた急性再発性受動喫煙症は、その悪化した状態を指すとの原告の主張を認めることはできず、他に、これを認めるに足りる証拠はない。

 原告の頭痛の症状が、A社において勤務していた時期の後は、分煙措置がとられていなかったD社及びE社において勤務していた時期(平成8年4月から平成9年10月まで)において再び見られたが、同勤務終了後解消したこと、次に、F社において勤務していた平成15年頃に再度発生し、平成16年にはマスクをして勤務するようになったが、同年5月以降のF社において勤務していた時期においては再度解消したこと、平成17年1月からのG社における勤務中から常時マスクをするようになり、平成19年9月からの本件会社のHオフィスにおける勤務の頃から活性炭入りのマスクを使用するようになった。(なお、原告は、分煙措置がとられていなかったD社及びE社における勤務の際には、A社での勤務の最後の時期と同様、勤務が終わった後も頭痛がとれない状態(原告が「万年頭痛」と供述する状態)になった旨供述するが、D社及びE社における勤務の際に、A社での勤務のときのように、勤務場所を週1日本件会社のオフィスに変更してもらうなどの措置を求めたことは窺われないのであって、上記原告の供述を直ちに採用することはできない。そして、仮に、原告の供述のとおりであるとすれば、A社における勤務の際の頭痛と同様、委員会診断基準要件〔2〕を満たさないことになる。)。
 しかしながら、平成9年11月以降の原告の勤務場所は、いずれも分煙措置がとられており、原告が受動喫煙症を発症したと原告が主張するA社の作業場で原告と同様に作業していた80名から100名程度の労働者については、非喫煙者も含めて特段体調の悪化を訴えていたとは認められず(原告は、原告以外に、本件会社からA社に配属となった従業員1名が、体調が悪いと訴えていたと述べるが、その症状及び程度については明らかではなく、それ以外の非喫煙者は、体調の悪化等を訴えていなかった。)、分煙措置がとられていなかったA社、D社及びE社を含め、上記の各職場において原告と同じ作業場に勤務する者のうち、原告と同様の症状を訴える者が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば、原告が、上記各職場での勤務当時、仮に、受動喫煙によって頭痛を発症させたとしても、それは、原告が、原告と同種の平均的な労働者に比べて、副流煙及び呼出煙に含まれる物質に対し、特に敏感であったためであるという可能性を払拭することは困難であり、原告と同種の平均的な労働者が、上記各職場において原告と同様の勤務を行った場合、同様の症状を来したとまでいうことはできないものというべきである。したがって、原告の発症した頭痛が、原告の従事した業務に内在する危険が現実化したものであると認めることはできない。

 以上のとおりであるから、原告の頭痛の症状について、これが業務上の原因によるものであるとする原告の主張には理由がない。


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