労災の障害補償給付に関して、後遺障害等級の併合と派生障害について判断した最高裁判決を紹介します。
玉名労基署長事件(最高裁昭和55年3月27日判決)
身体の部位の機能障害とこれより派生した神経症状が、後遺障害として残った事案です。
障害補償給付の後遺障害等級の評価が問題になりました。
事案の概要
右膝関節部に、障害等級表第10級の10に定める「著しい機能障害」及び同表第12級の12に定める「がん固な神経症状」(知覚異常)が残存し、両者は通常随伴する主従の関係にあるから、包括的に評価すべきであるとして、等級を繰り上げることなく、重い機能障害の10級と認定した。
原審の判断
原審は、以下のとおり、包括して一個の障害なので、後遺障害等級を繰り上げないと判断しました。
労災施行規則第14条第1ないし第5項によって、その具体的な障害等級及び補償給付の額を定めている。同一労働者に障害等級表に掲げる身体障害が二個以上存する場合の等級決定としては、第2項において「別表第一に掲げる身体障害が二以上ある場合には,重い方の身体障害の該当する障害等級による。」としながらも、第3項において「左の各号に掲げる場合には,前二項の規定による障害等級をそれぞれ当該各号に掲げる等級だけ繰上げた障害等級による。」とし、かつ、その第1号では「第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるとき」は一級操上げるべきものとしている。
労災保険における障害補償給付は、労働者が業務上の災害によつて永久的なものとなるおそれのある身体障害を蒙つた場合において、そのために喪失した当該労働者の一般的な労働能力に対する公平な補償を目的とするものであるから、労災施行規則第14条第1ないし第5項の規定も、かような障害補償制度の目的に照して合理的に解釈されるべきである。
したがって、併合繰上げによって障害等級表が定める全体の序列と明らかに矛盾するに至る場合(例えば、同一部位に障害の系列を異にする二個以上の身体障害があるが、これを単純に繰上げれば、当該部位の欠損又はそのすべての機能喪失についての等級を上廻わる結果となるとき)や、障害観察のいかんによつては、障害等級表の二個以上の等級に該当するが、実際には、一個の身体障害しか存在しない場合には、労災施行規則第14条第3項をそのまま適用することはできない。
本件行政解釈は、「重い外傷又は疾病により器質的又は機能的障害を残す場合には、一般に患部に第一二級又は第一四級程度の疼痛等神経症状を伴うが、これを別個の障害としてとらえることなく、器質的又は機能的障害と神経症状のうち最も重い障害等級によること。」というのであるから、帰するところ、複数の観点からの評価が可能であるため、障害等級表上複数の系列の障害等級に該当することになるが、そのすべてを包括して一個の身体障害にあたるものと観念するのが相当である場合についての取扱いを示したものと解される。
外傷又は疾病による器質又は機能障害が残存する場合には、それに伴って障害等級表第12級の12又は第14級の9に定める疼痛(知覚異常)等の神経症状が発現するのが常態であって、少くとも医学的には、その全体を一個の病像として把握すべきものとされていることが認められるところ、かような原因結果の関係をなす器質又は機能障害と疼痛(知覚異常)等の神経症状についていわゆる併合繰上げをすることは、障害等級表が定める全体的な障害序列を乱すことにもなりかねないから、医学的な見地からはもちろん、前叙説示のごとき公平な補償を目的とした障害補償制度上の観点からしても、原因たる器質又は機能障害とそれに随伴して生じる疼痛(知覚異常)等の神経症状とは、両者を包括して一個の身体障害にあたるものと評価するのが相当である。そうであるならば、結局、労働者が外傷又は疾病によって器質又は機能障害を残す場合について、通例それより派生する疼痛(知覚異常)等の、障害等級表第12級の12又は第14級の9に該当する神経症状を随伴している場合には、障害等級表上複数の観点からの評価が可能ではあるが、これを包括して一個の身体障害としてとらえる結果、いわゆる併合繰上げを定めた労災施行規則第14条第3項が適用される場合にあたらず、そのうちの最も重い障害等級(通常器質又は機能障害のそれがこれにあることになろう。)をもって評価すべきことになる。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を是認しています。
上告人の身体障害について労働者災害補償保険法施行規則別表第一所定の障害等級を認定するにつき、上告人の右膝関節部における機能障害とこれより派生した神経症状とを包括して一個の身体障害と評価し、その等級は前者の障害等級によるべく同規則14条3項の規定により等級を繰り上げるべきものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。