精神障害の労災認定は、業務による心理的負荷を業務による心理的負荷評価表の具体的出来事に当てはめて評価をします(心理的負荷の評価の仕方参照)。具体的な出来事の類型の⑥セクシャルハラスメントを取上げます。
セクシャルハラスメント
精神障害の労災認定基準は、心理的負荷表の具体的な出来事の類型として、セクシャルハラスメントを受けたことを挙げています。
平均的な心理的負荷の強度
平均的な心理的負荷の強度はⅡとされています。セクハラの内容・程度、セクハラが継続する状況、会社の対応の有無・内容、改善の状況、職場の人間関係等により心理的負荷の総合評価を行います。
会社の対応については、セクハラ防止指針における「事業主が雇用管理上講ずべき措置」等について検討します。具体的には、セクハラが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応等に着目し、会社の講じた対処等の具体的内容、実施時期等、職場の人間関係の変化、その他出来事後の状況について、検討の上、心理的負荷の強度を評価します。
セクハラは、出来事が繰り返されることが想定されます。繰り返される出来事を一体のものとして評価します。したがって、発病前6か月より前にセクハラが開始された場合でも、発病前6か月以内の期間に継続している場合は、開始時からのすべての行為が評価の対象となります。
認定基準におけるセクハラは、次のようなものを想定しており、心理的負荷の強度は「中」とされています。
認定基準が想定するセクハラ→心理的負荷の強度は「中」
(1) 胸や腰等への身体的接触を含むセクハラであっても、行為が継続しておらず、会社が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合
(2)身体的接触のない性的な発言のみのセクハラであって、発言が継続していない場合
(3) 身体的接触のない性的な発言のみのセクハラであって、複数回行われたものの、会社が適切かつ迅速に対応し発病前に終了した場合
心理的負荷の強度が「強」になる例
心理的負荷の強度が「強」になる例として、以下のものが挙げられています。
セクハラ事案の留意事項
精神障害の労災認定基準は、セクハラ事案の留意事項として、以下の点を挙げています。
(1)被害者は、勤務を継続したいとか、行為者からのセクハラの被害をできるだけ軽くしたいとの心理から、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送信したり、行為者の誘いを受け入れることがあるが、これらの事実がセクハラを受けたことを単純に否定する理由にならないこと
(2)被害者は、被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にならないこと
(3)被害者は、医療機関でもセクハラを受けたことをすぐに話せないこともあるが、初診時にセクハラの事実を申立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと
(4)行為者が上司であり被害者が部下である場合、行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等、行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素になり得ること