労災事故で会社へ損害賠償する場合、受給した労災保険は、損害賠償に影響しますか?
会社への損害賠償請求
労働災害の発生について、使用者である会社に過失がある場合、被災労働者は、使用者に対して損害賠償請求をすることができます。使用者に損害賠償請求する場合、労災保険と損害賠償との調整という問題が生じます。
人損の損害賠償の費目は、大きく分けると、①積極損害・②消極損害・③慰謝料の3つです。それぞれに、さらに損害費目があります。労災保険の給付内容と損害賠償の費目が重なるものがあります。労災保険と損害賠償のそれぞれから全額受領すると、被災労働者の二重取りが生じてしまうので、調整する必要が出てきます。
すでに支給された労災保険との調整
すでに支給された労災保険の給付額は、損害賠償から控除します。労基法の災害補償について、使用者が災害補償を行った場合、同一の事由については、その価額の限度で損害賠償責任を免れると規定されています(84条2項)。この規定は、労災保険にも類推適用されます。
将来支給される労災保険との調整
労災保険が年金として支給される場合、将来の年金と損害賠償の調整をどうするのかが問題となります。というのも、通常、損害賠償は、一時金払いといって、ある時点での全損害を一括で支払うからです。
最高裁は、将来の年金については、損害賠償から控除しないと判断しています。控除されるのは、すでに支給された労災保険と事実審の口頭弁論終結時において支給決定されている労災保険のみが控除されます。
なお、使用者は、年金の前払一時金の最高限度額の限度で損害賠償を猶予され、猶予期間中に前払一時金または年金が支払われたときは、その限度で賠償責任を免除されることになっています(労災保険法64条)。
法律上は、使用者が前払一時金の最高限度額を超える損害賠償を支払った場合は、労災保険の年金支給は停止されることになります。
特別支給金は控除されない
労災保険では、社会復帰促進事業等の一環で特別支給金を被災労働者に支給しています(労災保険法29条1項、50条、労災保険特別支給金支給規則)。批判は多いものの、最高裁は、特別支給金は、損害の填補としての性質を持っていないことから、損害賠償から控除しないとしています。
労災の特別支給金の損益相殺に関する最高裁判決は、以下の各記事参照