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過労自殺について労災と認められなかったが、使用者への損害賠償が認められた裁判例


過労自殺について労災とは認められなかったが、使用者に対する損害賠償が認められた裁判例を紹介します。

大阪地裁平成30年3月1日判決

 飲食店の店長が、うつ病に罹患後に自殺した事案です。

 過労自殺について労災とは、認められませんでした。しかし、使用者である会社やその役員に対する損害賠償は認められました。

事案の概要

 Xは、平成6年3月に調理師学校を卒業した後、調理師として複数の飲食店(うどん、そば)での勤務を経て、平成17年5月以降、被告Aにおいて調理師として勤務していたが、平成21年4月8日、自殺した。

 被告Aは、手打ちそば及びうどん等を店舗及び宅配で客に提供する飲食店の経営を行う有限会社である。被告Bは、平成20年5月14日に設立され、被告Aと同様の経営を行う株式会社である。

 被告Cは、被告Dの子であり、平成21年4月8日当時、被告両社の代表取締役を務めていた。被告Dは、被告C及び被告Eの父であり、同日当時、被告両社の取締役を務めていた

 Xは、平成17年5月、被告Aに入社し、アルバイトの調理師として勤務していたが、平成18年7月、被告Aの正社員に採用され、同月以降は正社員として勤務した。Xは、被告Aに入社した平成17年5月から同年6月6日までは乙店で勤務し、同月7日以降は甲店で勤務していたが、平成20年5月2日に丙店に異動して丙店の店長として勤務した。Xは、同年8月4日に甲店に再び異動した。

 Xは、平成20年9月頃、本件疾病を発症し、同年11月27日、丁メンタルクリニックを受診し、抑うつ状態、神経症及び不眠症の診断を受けた。Xは、同年12月4日から休職し、平成21年4月8日に自宅において自殺した。

 原告は、Xの自殺が業務上のものであるとして、同年12月18日付けで遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが、大阪西労働基準監督署長は、平成22年11月26日付けで不支給とする決定を行った。これに対し、原告は、原処分を不服として、同年12月28日付けで、大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求したが、平成23年7月22日付けで同請求は棄却された。さらに、原告は、前記決定を不服として、同年8月17日付けで、労働保険審査会に再審査請求を行ったが、平成24年8月17日付けで同請求は棄却された。
 原告は、原処分の取消しを求めて行政訴訟を提起したが、平成28年5月30日に大阪地方裁判所において原告の請求を棄却する旨の判決がされ、平成28年11月25日に大阪高等裁判所において原告の控訴を棄却する旨の判決がされ、原告の請求を棄却する旨の判決が確定した。

事案の詳細

 Xは、責任感が強く、真面目で気を張って仕事をするところがあり、時間が空いたときにも休憩を取らずに倉庫の片付けなどの雑用をすることがあった。Xは、被告Aにおいて、調理の技能を評価された職人として、ホールや出前の業務はせず、調理の業務のみを担当しており、職人としてのプライドが非常に高かった。Xは、調理師は調理場で立って食事するものだなどと述べ、実際に立ったままで食事をすることもあった。

 Xは、甲店で勤務していた際、Uと週ごとに早番(午前7時~午後5時)と遅番(午前11時~午後9時)を交代する形で、調理の業務を行っていた。夜勤(午後9時~翌日午前6時)は、Vが勤務していたが、2週に1回はXが勤務していた。Xは、甲店で勤務していたときは、土曜日が休みであった。

 Xは、過去に肝臓障害を患ったことから、被告Aに入社した後、同僚から誘われても飲酒を断っていたが、平成19年秋頃に飲酒を再開した。Xは、同年12月頃から平成20年3月頃までの間、体に酒が残ったまま出勤し、嘔吐しながら仕込み作業を行うなど、飲酒の影響で仕事に支障が出る状態が続いた。被告D、I及びOは、同月頃、Xに対し、仕事を1週間程度休み、入院して検査するように頼んだが、Xは、絶対に酒をやめるから入院しない旨述べ、1週間程度飲酒をやめた後、同月21日にIに付き添ってもらって己クリニックで検査を受けたところ、検査の結果が良好であったために入院はしないこととなった。Xは、酒での失敗を取り返すために頑張りたいとして新しく開店する丙店に異動することを希望し、被告CらはXが立ち直ることに期待して丙店の店長の地位に就かせることとした。

 Xは、丙店の店長になった後、甲店で従事していた調理の業務に加えて、被告Eとともにパートのシフトを決め、従業員の教育を行っていたが、その他には店長としての業務はなく、勤務シフトや売上げの管理などの丙店の経営に関する業務については被告Eが行っていた。被告Aでは、店舗ごとの売上げのノルマは課されておらず、Xがその責任を負うことはなかった。Xが丙店から甲店に異動した後は、丙店に店長に当たる従業員は置かれていない。

 Xは、丙店において、当初は午前7時から午後5時までの早番で勤務することになっていたが、平成20年5月3日、被告Eに対し、早番から遅番へのシフト変更の希望を出し、同月4日以降は遅番で勤務することになった。

 Xは、丙店で働いていたときは、帰宅した後も、従業員が効率的に働けるように動線や棚の配置を考えたり、新しいメニューを考えたりしており、材料を買ってきて棚を取り付けたこともあった。Xは、丙店の売上げのことを気にし、同年6月又は7月頃に丙店の売上げが甲店の売上げを越えたときには喜んでいた。

 Xは、平成20年6月頃から、徐々に疲れた様子を見せるようになり、同年7月頃には夕飯を残し、ため息をつくことも多くなっていた。

 Xは、同年8月1日、休みを取った。Xは、丙店で勤務し始めた頃から同年7月頃までは飲酒を控えていたが、同年8月1日に飲酒を再開した。Xは、同日に飲酒を再開した後、不眠解消のために酒を飲むようになり、同月頃からは二日酔いのまま出勤するなど仕事に支障が出るようになったため、被告Cらは、同月又は同年9月頃、Xに対し、飲酒の影響で仕事に支障が出ていることについて注意し、仕事に支障を来すようであれば辞めてほしい旨を伝えた。

 Xは、同年8月8日、休みを取り、原告とともに広島へ墓参りに行った。Xは、そのとき、鍵や眼鏡を忘れるなど、集中力を欠いた様子であった。Xは、同月末頃、夜中の午前2時や3時頃に眠れずにリビングで煙草を吸っていることがあり、同年9月頃には元気がなく、落ち込んでいる様子であった。Xは、同年10月頃には、お笑い番組を見ても笑わず、寝室に一旦は行っても眠れずにリビングへ戻ってぼうっとしていることが多くなり、Oに対して、ジェットコースターで落ちる感覚に襲われ、立っていられない、早く帰って横になりたい旨話していた。

 Xは、同年11月27日、不眠で体がだるく、憂鬱で頭がぼーっとしてすっきりしないとして、自発的に、丁メンタルクリニックでW医師の診察を受けた。W医師は診療録に、「新店のオープニング(立ち上げ3カ月間)を5月からまかされ、3カ月休みなく働いた。その時はテンションが上がっていたが、もとの店にもどった、9月頃よりやる気が出ない、すい眠がすぐに目が覚めてしまう。」、「5、6、7と3カ月間新店のオープンで休めなかった→休養が必要」、「休むなら辞める覚悟が必要→休日は休みましょう」などと記載し、Xが寝られないため毎日500ミリリットルの缶ビールを1日3本飲んでいる旨記載した。

 W医師は、労基署に提出した意見書に、Xの推定される本件疾病の発症時期及びその判断根拠について「新規開店をまかされて休日もなく働いた反動で、疲労から抑うつ状態を呈したと考える」、疾患の原因について「内因性うつ病の可能性は捨てきれないが、きっかけは過重労働と考えられる。疲労に伴う反応性うつ病が疑わしい。」などと記載した。

 Xは、平成20年12月、被告に対し、うつ病のために会社を辞めさせてほしい旨申し出たが、被告Dは、病気を治した後に復帰してもらいたいと伝え、Xは、同月3日から休職することになった。Xは、同月4日、被告Eに対し、「今日病院に行き、先生の話では、仕事に戻れるのは最低数ヶ月かかるとの事でした。忙しい最中本当に申し訳ありません。」と記載したメールを送信し、被告Eは、返信として、「了解です。Xくんが戻ってくるまでがんばるんで、完全に体を治して元気になって帰ってきて下さい。」と記載したメールを送信した。Xは、平成21年1月5日、被告Eに対し、社会保険の傷病手当の支給を求める旨のメールを送付した。Xは、同年3月5日、被告Eに対し、そろそろ仕事復帰できる旨話し、仕事復帰への意欲を見せていた。

 Xは、同月31日の午後3時頃、睡眠薬と酒を同時に飲んで自殺未遂をし、原告が救急車を呼んだ。Xは、同日午後7時30分頃に戊病院に搬送され、救急外来を受診して点滴静脈注射等の治療を受けて帰宅した。

 Hは、同年4月2日、被告Eに対し、Xの休業について労災申請を相談しに行き、被告Eは、Xに対し、Hが来たことについて問い合せるために電話を掛けたが、Xが車の運転中だったために話ができなかった。Xは、その後、被告Eに対して電話を掛けたが、被告Eが電話に出なかったため、被告AはXのことを辞めさせるつもりなのだろうなどと原告に述べ、落ち込んでいた。

裁判所の判断

 Xが平成20年5月10日に休みを取ったことが認められる。Xは同月11日から同年7月31日まで休みなく働いていたと認めるのが相当である。

 Xは、丙店で勤務していた期間も、平成20年5月22日以降の木曜日は甲店で午前11時から午後5時まで勤務していたと認めるのが相当である。Xが勤務する日はXと交代で勤務することになっていたQは、午後10時頃から調理の業務に従事していたことが認められるから、Xが丙店で働く日の終業時間は午後10時頃であったと認めるのが相当である。

 以上によれば、Xの丙店で働いていた時期の勤務時間は、少なくとも、平成20年5月2日は午前7時から午後5時まで、同月3日は午前11時から午後5時まで、同月4日は午前11時から午後9時までであり、同月5日以降、木曜日は午前11時から午後5時まで、その他の曜日は午前11時から午後10時までであったと認められる。また、Xは、午後2時から午後5時までの間に平均1時間程度の休憩時間を取得できていたと認めるのが相当である。

 精神障害の労災認定基準においては1か月以上の連続勤務を行っていれば業務による心理的負荷が強度とされるところ、Xは、平成20年5月11日から同年7月31日までの82日間にわたり連続勤務をしたと認められ、Xの連続勤務の日数はそれを大きく上回ったことが認められるから、その点だけを見ても心理的負荷は強度であったというべきである。さらに、認定基準では発病直前の連続した3か月間において1月当たり100時間以上の時間外労働に従事したときは業務による心理的負荷が強度とされるところ、Xは、「裁判所が認定したXの労働時間等」の各月の時間外労働時間数の欄に記載のとおり、同年9月の本件疾病の発病に近接した同年5月から同年7月までの連続した3か月間において1月当たり100時間以上の時間外労働に従事したことが認められるから、前記の連続勤務と併せ、業務による強い心理的負荷を受けたと認めるのが相当である。また、Xは、丙店から異動した翌月である平成20年9月頃に本件疾病を発症し、W医師はXの本件疾病について疲労が原因である旨の意見書を提出したことが認められる。

 したがって、Xは、本件疾病を発病するその他の原因がうかがわれない限り、丙店における業務による強い心理的負荷を原因として本件疾病を発病し、本件疾病によって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥り、それにより自殺に至ったと認めるのが相当である。

 Xは、丙店における業務による心理的負荷によって、本件疾病を発症し、自殺するに至ったものとして、その業務と自殺との間に相当因果関係があると認められる。

 被告Aは、その雇用する労働者の従事する業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。被告Aは、Fを従業員として雇用して丙店及び甲店において業務に従事させていたことが認められるところ、Fは、長時間の労働に継続的に従事したことで業務による強い心理的負荷を受け、本件疾病を発症して自殺するに至ったことが認められるから、前記義務に違反したと認めるのが相当である。

 被告Cは被告Aの代表取締役であり、被告Dは被告Aの取締役であるところ、被告C及び被告Dは、従業員の労務管理の業務を行うにつき、過重な長時間労働等により従業員が心身の健康を損なうことのないよう、適正に労働時間等の管理を行い、従業員に長時間労働が生じたときは直ちにこれを是正するための社内体制を構築する義務を負っていた。
 被告C及び被告Dは、Xが丙店の店長として勤務していたときに心身の健康を損ねることが明らかな長時間労働に従事していたにもかかわらず、これを是正する措置を執らなかったのであり、取締役としての職務を執行するにつき、前記義務を悪意又は重過失によりけ怠し、Xを過重な業務に従事させたと認められる。
 したがって、被告C及び被告DはXに対してそれぞれ会社法429条1項の責任を負う。


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