安全配慮義務に関する最高裁判決(労災の損害賠償)

最高裁の判断

 最高裁は,以下のように,労働契約における使用者の義務として,安全配慮義務の存在を肯定しました。

 雇傭契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが,通常の場合,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて労務の提供を行うものであるから,使用者は,報酬支払義務にとどまらず,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である。使用者の安全配慮義務の具体的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであることはいうまでもないが,これを本件の場合に即してみれば,上告会社は,X一人に対し昭和53年8月13日午前9時から24時間の宿直勤務を命じ,宿直勤務の場所を本件社屋内,就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから,宿直勤務の場所である本件社屋内に,宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し,かつ,万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに,これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは,宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし,もって物的施設等と相まって労働者たるXの生命,身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったものと解すべきである。

 上記の事実関係からみれば,上告会社の本件社屋には,昼夜高価な商品が多数かつ開放的に陳列,保管されていて,休日又は夜間には盗賊が侵入するおそれがあったのみならず,当時,上告会社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり,不審な電話がしばしばかかってきていたというのであり,しかも侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず,上告会社では,盗賊侵入防止のためののぞき窓,インターホン,防犯チェーン等の物的設備や侵入した盗賊から危害を免れるために役立つ防犯ベル等の物的設備を施さず,また,盗難等の危険を考慮して休日又は夜間の宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するとか宿直員に対し十分な安全教育を施すなどの措置を講じていなかったというのであるから,上告会社には,Xに対する上記の安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない。そして,上告会社において上記のような安全配慮義務を履行しておれば,本件のようなXの殺害という事故の発生を未然に防止しえたというべきであるから,当該事故は,上告会社の安全配慮義務の不履行によって発生したものということができ,上告会社は,当該事故によって被害を被った者に対しその損害を賠償すべき義務があるものといわざるをえない。