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副業・兼業による長時間労働と安全配慮義務


副業・兼業している労働者が長時間労働で脳・心臓疾患や精神障害を発症した場合の使用者の安全配慮義務を取上げます。

複数業務要因災害

具体例

A社とB社の2社に雇用されている労働者のXは、A社で月60時間・B社で月70時間の時間外労働を行った結果、うつ病を発症した。

 A社におけるXの時間外労働は60時間です。B社におけるXの時間外労働は70時間です。それぞれの時間外労働時間数のみでは、心理的負荷の強度は「強」とならず、労災と認定されません。

長時間労働の精神障害の労災認定基準での取扱い

精神障害の労災認定基準において、長時間労働は、どのように評価されるのか?を解説します。

 しかし、A社とB社の労働時間を合算すると、月120時間超の時間外労働を行ていたことになり、心理的負荷の強度は、「強」となります。したがって、労災保険では、複数業務要因災害として、保険給付が行われます。

エソラ

複数事業労働者の労災保険給付は、以下の記事参照

労災保険における複数業務要因災害

労災保険の複数業務要因災害について解説します。

 複数業務要因災害の場合、使用者は、労基法上の災害補償責任を負わないと解されています。では、複数業務要因災害の場合、使用者は安全配慮義務違反による損害賠償責任を負わないのでしょうか?

複数業務要因災害と安全配慮義務

 複数業務要因災害の安全配慮義務を考えるに際して、労基法の労働時間規制から検討することになります。

副業・兼業と労働時間規制

 労基法は、事業場が異なる場合でも労働時間を通算して計算すると規定しています(労基法38条1項)。

 この規定は、同一の使用者の下で事業場が異なる場合だけでなく、使用者が異なる場合も含むと解されています。

 したがって、使用者は、他社で副業・兼業している労働者に対して、その労働時間を報告させ、実態を把握して、違法な時間外労働をさせない義務を負っていると解されます。

副業・兼業の促進に関するガイドライン

 令和4年7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定されました。

 同ガイドラインは、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者が安全配慮義務を負っていることを前提に、使用者が労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら放置し、労働者が脳・心臓疾患や精神障害を発症した場合は、安全配慮義務違反が問題になるとしています。

複数業務要因災害の安全配慮義務

 労基法の規定、ガイドラインの考えからすると、労働者が副業・兼業をしていることを使用者が把握してる場合、副業・兼業における労働時間についても把握し何らかの措置を講じる義務があると解されます。この義務に違反して、何らの措置も講じず長時間労働をさせた場合は、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うと解されます。


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