業務以外の心理的負荷と個体側要因(精神障害の労災認定基準)
精神障害の労災認定基準
精神障害の労災認定基準では,次の順序で労災かどうかを審査しています。
- ①精神障害の発病
- 認定基準対象となる精神障害を発病していることが大前提です。
- ②業務による強い心理的負荷があったかどうか
- 特別な出来事があれば,業務による強い心理的負荷があったと認定します。
- 特別な出来事がなければ,具体的出来事の総合評価を行い,認定します。
- ③個体側要因の評価等
- 業務以外の心理的負荷による発病かどうかを審査します。
- 精神障害の既往症等の個体側の要因による発病かどうかを審査します。
業務以外の心理的負荷と個体側要因
精神障害の労災認定基準は,業務以外の心理的負荷と個体側要因を労災の認定除外事由として挙げています。業務以外の心理的負荷と個体側要因によって,精神障害を発病していないと認められるのは,どのような場合か問題になります。
労災の認定基準では,次の2つの場合をいいます。
①業務以外の心理的負荷と個体側要因が認められない場合
②業務以外の心理的負荷と個体側要因は認められるが,業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合
業務以外の心理的負荷
業務以外の心理的負荷も,業務上の心理的負荷と同様に,業務以外の心理的負荷評価表で具体的出来事ごとに,心理的負荷の程度を「Ⅲ」,「Ⅱ」,「Ⅰ」とまとめています。参考までに,いくつか具体的出来事を挙げておきます。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の強度 |
自分の出来事 | 離婚又は夫婦が別居した | Ⅲ |
金銭関係 | 借金返済の遅れ,困難があった | Ⅱ |
住環境の変化 | 引っ越しした | Ⅱ |
労災の認定基準は,心理的負荷評価の強度が「Ⅲ」の出来事が複数ある場合や,「Ⅲ」の出来事のうち特に心理的負荷が強いものがある場合は,内容を詳細に調査し,発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討するとしています。
したがって,心理的負荷の強度が「Ⅱ」と「Ⅰ」の出来事がいくつあっても,労災の認定には影響しないということができます。また,心理的負荷の強度が「Ⅲ」の出来事が1つあっても,労災の認定には影響しません。
個体側要因
業務による強い心理的負荷が認められたが,個体側要因によって発病したことが医学的に明らかな場合の具体例として,重度のアルコール依存がある場合や就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返し,発病した精神障害が一連の病態である場合です。
業務以外の心理的負荷と個体側要因はほとんど問題にならない
業務による強い心理的負荷があったと認められれば,業務以外の心理的負荷と個体側要因が原因で発病したと認定されることは,ほとんどないと考えられます。