労災保険の通勤災害の要件である通勤起因性を取上げます。
通勤起因性
労災の通勤災害(労災保険法7条3号)が認められる要件として、生じた災害と通勤との間に、相当因果が存在することが必要です。これを通勤起因性といいます。
通勤は、業務行為と異なり、その態様が多様です。そして、空間的な限定がなく、第三者や物が関与して災害が発生するという特徴があります。そのため、災害の範囲の限定が困難で、予想できない災害が発生する可能性もあります。
通勤起因性は、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいうと解されていています。通勤起因性は、業務上災害の業務起因性に相当するといえます。
通勤起因性が肯定される場合
通勤に通常伴う危険は、①通勤経路に内在している危険と②通勤方法に内在している危険に大きく分けることができます。
通勤起因性が認められる典型例は、以下のような場合です。
通勤起因性が認められる典型
①通勤途中に、自動車にひかれた
②通勤途中に、乗車した電車が急停車し転倒して負傷した
③通勤途中に、駅の階段から転落した
また、通勤途中に建設中のビルから落下した物体によって負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合なども通勤起因性が認められています。
通勤起因性が否定される場合
通勤途中に自殺した場合、被災者の故意によって生じた災害、通勤途中に怨恨によりけんかして負傷した場合などは、通勤していることが原因となって災害が発生したといえません。したがって、通勤起因性は、否定されます。
また、以下のような場合も、通勤起因性がないと判断されます。
通勤起因性が否定される場合
(1)労働者の身体的素因によって傷病が生じ、通勤が当該傷病の単なる機会でしかなかった場合
(2)労働者の積極的な私的行為又は恣意的行為によって災害が生じた場合
(3)労働者の通勤行為の逸脱・離脱行為によって災害が発生した場合