複数事業労働者の労災保険給付

労災保険法の改正により、複数事業労働者の労災保険給付の規定が新設されました。

複数事業労働者の労災保険給付

 働き方改革などにより、副業や兼業をしている労働者が増加してきていることなどを踏まえ、労災保険が改正され、複数事業労働者の労災保険給付の規定が新設されました(労災保険法7条1項2号)。

複数事業労働者とは?

 労災保険法1条は,「事業主が同一人ではない2つ以上の事業に使用される労働者」を複数事業労働者と規定しています。つまり,労働災害の発生時点で,A社とB社の2つの会社と労働契約を結んで雇用されている労働者は,複数事業労働者に該当します。

特別加入者も複数事業労働者に該当する場合がある

 特別加入制度の対象者も以下の場合は,複数事業労働者に該当します(特別加入については,労災保険の特別加入制度参照)。

 ①1つの会社と労働契約を結び雇用されていて,他の就業は特別加入している。

 ②複数の就業について特別加入している。

給付基礎日額の合算

 労災保険法の改正前は,副業で勤務している会社の就業中にケガをした場合や,副業の会社に向かう途中でケガをしたような場合,労災保険の各種給付の基礎となる給付基礎日額は,副業で支払われている賃金を基に算出されていました。副業の給料の方が低いことが多く,結果,労災保険の給付額が少なくなるという問題がありました(兼業を行っている労働者の過労自殺に関する裁判例参照)。

 しかし,複数事業労働者に該当すると,給付基礎日額を各就業先で支払われている賃金を合算した金額で算出します(労災保険法8条3項)。

 たとえば,A社の給料が30万円,B社の給料が10万円の労働者が,B社で就業中にケガをした場合,A社とB社の給料の合計40万円を基に労災保険の給付が算定されます。

 なお,給付基礎日額については,給付基礎日額(労災保険の基礎)をご参照ください。

過労死・過労自殺の業務上の負荷を総合考慮する

 脳・心臓疾患と精神障害の労災認定は,労働時間やストレス等の心理的負荷といった業務上の負荷の有無によって判断されます(脳・心臓疾患(過労死)精神障害(過労自殺)それぞれ参照)。

 この業務上の負荷の判断に際し,複数事業労働者は,複数の会社における業務上の負荷を総合的に評価することになりました。これを複数業務要因災害といいます(労災保険法20条の2以下,労災保険規則18条の3の6以下)。

 A社における業務上の負荷,B社における業務上の負荷のどちらも労災と認定されない場合でも,A社とB社の業務上の負荷を総合的に評価して,労災と認定できるか?を判断することになります。

複数事業労働者の労災保険給付は,2020年9月1日以降発生の労災に適用

 労災保険法の改正により新たに設けられた複数事業労働者の労災保険給付は,2020年9月1日以降に発生した労災が対象になります。

 したがって,2020年8月31日までに発生した労災については,複数事業労働者であっても,給付基礎日額の算定に際し,給料を合算されません。