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けんかによる死傷と労災の認定


従業員同士のけんかによる災害が労災か?を判断した最高裁判決を紹介します。

倉敷労基署長事件(最高裁昭和49年9月2日判決)

 大工である労働者が、元同僚と仕事上のことから争いを起こし、建築現場付近の県道上で頭部を殴打され、それがもとで死亡したという事案です。けんかによる死亡が、労災か?が争われました。

他人による暴行と労災の認定

業務中に他人の暴行によって、けがをした場合、労災と認定されるのか?を解説します。

事案の概要

 大工Aは、昭和37年9月29日の朝、大工Bとともに、倉敷市の大工C方に、適当な仕事先がないかと相談しに行つた。そして、AはC方で昼頃まで冷酒約4合を飲んだのち、CにつれられてBとともに、同日午後1時頃、就職を依頼するため、工務店現場監督を尋ねて、建築工事現場に行つた。

 現場は、工務店が請負った側壁をブロックとし屋根を鉄筋コンクリート造とする住宅新築工事現場で、同工務店はその大工作業をD組に下請させ、同組では大工世話役の下で亡X、他3名の大工に仕事をさせていたが、Aらが現場にきたときは、世話役はおらず、3名の大工のみが一階の屋根の上で板張りの仕事をしていた。

  屋根部分には、県道から幅三尺位の桟橋をかけ、これを使い屋根にあがれる足場ができていたが、右現場周囲及び右足場にはなんらの障壁、囲もなく、外部から自由に出入できるようになっていた。

 現場には現場監督がきていなかつたので、Aは、以前一緒にD組で働いていた亡Xらに時候の挨拶をし、屋根の上で梁の間の寸法を測り板を打ちつけていた亡Xの傍にかがみこんで、1,2か所所携のスケールで梁の検尺をして同人が釘を打ち易いように板の片方を押えるなどの手伝いをしながら、「世話役が帰つてきたら、工務店で働けるように就職を頼みにきたと伝えてくれ」といって伝言を依頼した。ついで、Aは、既に構築されている仮枠の梁の間隔を測つて亡Xにその寸法が広すぎると指摘してから、前示桟橋を下に向けて降りかけていたところ、亡XがAに対し「仕事ができもしないのに」と言ったので、Aはこれを聞きとがめたが、そのまま下の県道のところまで降りた。そして、Aは、亡Xに謝罪させようとして、Bに対し亡Xを呼んでくるように言ったが、Bはもし亡Xを呼んでけんかになってはいけないと考えて、これを止めた。しかし、Aは「言うだけは言って話をつけておいてやらんといけん」といつて亡Xを降りてくるように呼ぶと、同人がすぐ降りてきて、右足場の東はずれの川の向い側の県道上でAと向い合った。

  Aが亡Xに対し「お前さっきいらんことを言つたのを」というと、亡Xは返事もせずにただにやにや笑っているので、傍にいたCは、このままではAが暴力をふるうかもわかもないと考え、亡Xの肩をつきながら繰返しいって謝罪するようにすすめたが、亡Xがなんらの応答もせず、ただにやにや笑みを浮べていかにもAを馬鹿にしたような態度を示すので、Aは、自分を嘲笑しているものと考え、憤激の余り、突如手拳で亡Xの顔面を突き、同人の左腰から玄能を右手でとり、これで同人の左頭部を殴打した。

 その後、右両名は仲直りし、亡Xも屋根に上って作業を続けたが、同人は、Aの右暴行により、左側頭部打撲傷頭蓋骨内出血左側頭骨皹裂骨折の傷害を受けていたため、同年10月1日午前3時30分死亡した。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のように、本件のXの死亡は業務起因性が認められず、労災ではないと判断しました。

 Aと亡Xとの間の紛争はAが仮枠の梁の間隔が広すぎると指摘したことに端を発しているが、しかし本件災害自体は、亡Xが、Aに対しその感情を刺激するような言辞を述べ、更に同人の呼びかけに応じて県道上まで降りてきて嘲笑的態度をとり、同人の暴力を挑発したことによるものであつて、亡Xの一連の行為は、全体としてみれば、その本来の業務に含まれるものといえないことはもちろん、それに通常随伴又は関連する行為ということもできず、また業務妨害者に対し退去を求めるために必要な行為と解することもできない。それゆえ、亡Xの死亡がその業務に起因したものということはできない。


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