業務起因性と他人による暴行

 労働者が業務中に,業務と関係ない理由で,同僚,部下や上司から暴行を受けた場合や,第三者から暴行を受けた場合,他人の故意に基づく行為として,業務起因性が否定されるのが原則です。

 第三者による暴行も業務と関連する場合があります。たとえば,職場の人間関係や第三者との職務上の関係から生じる業務危険と認められれば,業務起因性が肯定され,労災と認定されます。

 したがって,他人の故意に基づく行為は業務起因性がないとされますが,その原因が業務にあり,業務と行為との間に相当因果関係が認められる場合,他人の故意が競合していても,業務起因性が認められます。

他人による暴行が業務起因性が認められる場合

 他人による暴行について,業務起因性が認められるかどうかは,おおむね次のように判断されています。

 ①加害行為が明らかに業務に関連していることが必要

 暴行の経緯だけでなく,労働者の職務内容,性質を重視して判断されます。

 ②業務と関連性があるというだけでは条件関係があるにすぎない場合が多い

 一見すると,業務に関連するように見えても,実際は加害者の私怨や加害者との私的な関係に起因している場合もあることがその理由です。

 ③業務起因性があるかどうかは,業務上の事実と加害行為との時間的関係,場所的関連性を重視して判断する

加害者も負傷している場合

 加害者も負傷している場合は,「けんか」だと判断されやすくなります。けんかは,原因がすでに私怨に発展していることが多いため,発端が業務と関連があったとしても,業務との相当因果関係は失われていると判断されます。

 もっとも,加害者が負傷していたとしても,それが正当防衛による場合は,けんかと同視はされません。なお,被害者が職務上の限度を超えて相手方を刺激したり挑発した場合は,恣意的に被害の危険を自ら招いたので,業務起因性が認められないことが多いです。

労働行政実務の考え方

 他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて,平成21年7月23日に通達が出されています(平成21年7月23日基発723号第12号)。この通達は,裁判例の動向や認定事例の蓄積を踏まえて,次のように取扱うとしています。

 業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって,他人の故意に基づく暴行によるものについては,当該故意が私的怨恨に基づくもの,自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き,業務に起因する又は通勤によるものと推定する。