災害性の傷病等が、業務上の事由によると認められるための要件を判断した最高裁判決を紹介します。
十和田労基署長事件(最高裁昭和59年5月29日判決)
労働者の通勤途上において発生した災害が、業務上災害になるか?が争われた事案です。
以下の「通勤途中の災害と労災」も参照
通勤途中の災害と労災
通勤途中の事故は通勤災害として労災の対象になります。中には、業務上災害と認められる場合があります。どのような場合に業務上災害と認められるか?を解説します。
事案の概要
Xは、Aにタイル工として雇用されていたが、昭和44年9月15日午前8時30分ころ、自己所有の自動車を運転して、自宅から、Aが施工していた高等学校のタイル張り工事の現場に出勤する途上、国道4号線道路上でB運転の自動車と衝突し、頭蓋骨骨折により死亡した。
被上告人は上告人に対し、Xの死亡が業務上の事由によるものであるとして、昭和48年の改正前の労働者災害補償保険法所定の遺族補償年金の保険給付を請求したが、上告人は、Xの死亡は業務上の事由によるものではないとの理由で、保険給付を支給しない旨の決定をした。
最高裁の判断
最高裁は、労働者が通勤途上においても、なお、事業主の支配下に置かれていたと認めるべき特別の事情がなければ、業務上災害に該当しないと判断しました。
労働者の負傷、疾病、障害又は死亡が労働者災害補償保険法に基づく保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当である。
通勤途上において発生した災害は、労働者が、使用者の提供した専用の交通機関を利用していた場合、又は通勤の途中で業務を行うことを予定していた場合等、労働者が通勤途上においてもなお事業主の支配下に置かれていたと認めるべき特別の事情がある場合を除き、業務上の事由によるものということはできないと解すべきである。