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業務上腰痛の損害賠償④(労災の損害賠償)


業務上腰痛の損害賠償で紹介した安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の裁判例の詳細を紹介します。

名古屋埠頭事件(名古屋地裁平成2年4月27日判決)

 港湾荷役業務を営む会社で、クレーンの運転業務に従事していた労働者が、腰痛症に罹患した事案です。使用者の安全配慮義務違反の有無が、問題になりました。

事案の概要

 被告は、昭和25年、埠頭業、港湾運送事業、それに関連する事業を営む目的で設立された株式会社で、名古屋港に接岸した船から石炭、鉱石類などのいわゆるバラ貨物を荷揚げして貯炭場に保管し、それを出荷することを主たる業務とし、そのため大型・小型各クレーン、ショベルカーを保有している。

 原告は、昭和36年2月6日、クレーン運転手として雇用され、同日から昭和41年2月末日まで大型クレーンの運転業務に従事した。大型クレーンは、水平引込みクレーンと呼ばれるもので、港の岸壁近くに据付けられていて、地上10数メートルの高さに設けられた四角い運転室から船内を見おろす姿勢で、3本のレバー(うち一本は常時使用しない。)と一つのペダルを使用してクレーンを操作していた。

 原告は、昭和41年3月1日から小型クレーンの運転業務に従事するようになった。小型クレーンの作業は、バラ貨物を船からトラックに積む「荷揚げ」、トラックが運んできたものを船に積む「船おろし」、トラックが貯炭場に運んできたものを更に円錐状に積み上げて整理する「まくり」などであった。

  原告は、被告が保有していた小型クレーンのうち、移動式の本件クレーンを運転した。本件クレーンを運転する際には、右手でバケットの上下用と開閉用の二本のレバーを、左手でクレーンを回転させるためのレバーを操作し、左右の足でバケットの支持及び開閉用の各ブレーキを操作するもので、腰掛け姿勢とはいっても、バケットが自重で下がらないようにするため、左右両側のペダルの上に常時両足を乗せていなければならず、その姿勢で上肢、下肢を同時または交互に動かす動作を一時間に150ないし200回も繰り返すもので、大型クレーンの操作と特徴的に異なるのは、両足が、常時浮き足状態にあるため、運転手の体重を腰や背中で支えるような不安定な姿勢を強いられる点であった。

 原告は、本件クレーンの運転をはじめて半年位からふくらはぎがかなり張り、両肩特に右肩が凝るようになった。そして、昭和42年3月末ころになると、更に腰部に鈍痛を自覚するようになったため、同年4月3日、みなと診療所で受診し、通院したところ、夏ころには症状は消失した。しかし、秋になって「まくり」作業等をすると肩が痛く、頸が凝り、腰痛も再発したため、みなと診療所に再び受診し、投薬、注射、湿布、赤外線治療を受け、同年9月下旬からは、はり、灸、マッサージ治療も受けるようになった。そして、同年12月に入ると、本件クレーンの運転中も、腰、肩、頸の痛みが強く、その痛みのため睡眠時間も充分にとれない状態が続いたため、医師と相談のうえ、昭和43年1月31日から腰痛症を理由に休業した。

 原告は、上記腰痛が当時私病扱いであったため、全快はしていなかったものの、昭和43年6月8日から原職のクレーン職場に復帰し通常勤務をする(夜間に通院していた。)一方、同年7月初旬に上記腰痛症は業務上災害であるとして名古屋南労働基準監督署長に対し療養補償給付の請求をした。同署長は同年10月23日付で本件は業務上の事由による傷病でないとして不支給処分をし、更に愛知労働者災害補償保険審査官も昭和45年3月16日付で原告の審査請求を棄却した。しかし、労働保険審査会は昭和47年11月2日付で上記腰痛症につき業務起因性を認めたうえ南労基署長の上記不支給処分を取り消した。

 原告は、昭和44年1月31日、ボーキサイトのトラック積み作業をしていたところ、本件クレーンのアウトリガー(クレーンの転倒防止用ジャッキ)のねじを締める際、足元にこぼれていたボーキサイト(豆粒状ですべりやすいもの)で滑り、はずみで腰部を打撲し、災害性腰痛症に罹患した。この腰痛症は、同年3月10日付で南労基署長から業務起因性の認定を受けた。

裁判所の判断

 使用者は、労働者を雇用して自らの管理下に置き、その労働力を利用して企業活動を行っているものであるから、その過程において労働者の生命、身体、健康が損われることのないよう安全を確保するための措置を講ずべき安全配慮義務を負っている。本件では、原告が従事した本件クレーンの運転は、運転手に対し常時両足を浮足状態にして体重を腰や背中で支えるような不安定な姿勢を強いるもので、しかも、被告はクレーンを含む小型クレーンの運転手が腰痛を訴えていたことを、遅くとも、昭和40年ころには知っていたのであるから、被告としては、原告にこのような作業を命ずる場合には、職業性及び災害性の腰痛症の発生を防止するため、このような運転姿勢が避けられないなら、その作業取扱量、作業時間、作業密度等の労働条件に思いを致し、腰痛症の発症要因の除去、軽減に努め、更には、腰背部に負担がかからないように、本件クレーンの改良等に努めるべき業務があり、また、腰痛症に罹患し、職場復帰した原告に対し、その病勢が増悪することのないように措置すべき業務があったといわざるを得ない。

 原告が本件クレーンに乗機するようになった昭和41年3月以降、本件クレーンの一日当たりの取扱屯数及び一時間当たりの取扱屯数は昭和37年のそれらと比較すると相当増加している反面、本件クレーンの両時期における実働時間は短縮され、その分、労働密度が高くなり、労働強化がはかられているのであるから、被告には腰痛症の発症要因の除去、軽減に努めるべき義務を怠った債務不履行により原告に第一次腰痛症を発症させたといわざるを得ない。なお、被告がした小型クレーンの改良措置は十分なものでなく、原告の腰痛症発症の防止には役立たなかった。また、第二次腰痛症についても、被告は第一次腰痛症を私病扱いにし、療養中であった原告の職場復帰にあたって、原告の腰痛症状にあわせた内容の業務を与えず、業務量について適切な軽減措置をとらないまま、原職にフルタイムの作業をさせたもので、その労働負担が直接アウトリガー事故を招来したとはいえないけれども、少くとも腰痛症の病勢悪化をもたらしたことは否定することができず、この点においても被告は債務不履行責任を免れることはできない。


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