労災の業務上疾病の内、重激な業務による筋肉・腱・骨・関節の疾患・内臓脱の労災認定基準を取上げます。
重激な業務による筋肉・腱・骨・関節の疾患・内臓脱
労基法施行規則は、重激な業務による筋肉・腱・骨・関節の疾患・内臓脱を業務上疾病として例示列挙しています(労基法施行規則別表第1の2第3号1)。
①重激な業務に従事中、当該業務に起因して急性に発症する疾患と②身体的局所に持続的に過度の負担が加わることによって、関節等に病的状態を生じさせる慢性疾患があります。
重激な業務
重激な業務とは、重量物を間断なく取扱う港湾荷役作業等の重筋作業又はこれらに匹敵する程度の身体局所に過度の負担が急激又は持続的に加わる業務をいいます。
港湾荷役作業、採石作業、貨物取扱作業等が、重激な業務の一例として挙げることができます。
疾病の種類
業務上疾病として例示列挙されている疾病は、筋肉・腱・骨・関節の疾患と内臓脱です。主な疾病は、以下のとおりです。
筋肉の疾患
筋断裂が挙げられます。筋断裂は筋の過度伸長により、急激に起こる皮下損傷です。不全断裂と全断裂があります。
腱の疾患
腱断裂と腱鞘炎を挙げることができます。
腱断裂は、腱の皮下損傷で急性に起きます。外力が加わる又は腱脱臼に際して過度の延長を来したことが原因になります。
腱鞘炎は、軋轢性腱鞘炎と狭窄性腱鞘炎に分けることができます。
関節の疾患
関節の疾患として、関節炎、膝関節部慢性粘液嚢炎、月状骨軟化症を挙げることができます。
内臓脱
内臓脱とは、過激な労働による異常腹圧又は激しい振動等の慢性的影響により内臓が圧下、牽引されて腹腔外に脱出する疾病のことです。主として、重量物運搬に従事する労働者に発症すると言われています。
内臓脱としては、腹部ヘルニア、子宮脱を挙げることができます。
労災の認定基準
労災と認定されるには、一般的認定要件と医学的診断要件を充足していることが必要です。
一般的認定要件は、急性疾患と慢性疾患で区別されています。
急性疾患の場合
急性疾患の一般的認定要件
(1)業務上の突発的又は発生状態を時間的、場所的に明確にし得る災害が存在する
(2)当該災害の性質、強度、身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に医学上の因果関係がある
(3)業務に起因しない他の原因により発病したのではない
慢性疾患の場合
慢性疾患の一般的認定要件
(1)当該作業条件、作業従事期間等から有害程度が当該疾病発生の原因とするに足りるものである
(2)当該疾病に特有又は医学的経験則上通常起こり得ると認められる症状が見られる
(3)業務に起因しない他の原因によるものではない
(4)医学上療養が必要と認められる症状である
(5)当該作業における類似症状を呈する患者発生の有無について調査を行う
医学的診断要件
医学的診断要件は、以下のとおりです。
①作業条件の評価
重量物運搬等の重激な業務に従事した事実の有無、重激の程度等の把握をします。労災と認定されるには、取扱物の大きさ・重量・性質、作業環境、作業態様、労働者の性別・年齢・体格・体重等個々の条件から医学的にその業務が当該疾病を生じさせるのに十分な程度の重激さを有していることが必要です。
②臨床検査項目
筋肉・腱の疾患、ヘルニアは患部の触診と視診を行います。関節の疾患は、X線等の検査を行います。
③業務に起因しない他の疾病との鑑別
筋肉・腱の疾患、ヘルニアは、力を入れた瞬間、該当部位に激痛が生じたかどうか、関節の疾患は負荷が継続してかかった関節部位に疾病が発生したかどうかにより鑑別を行います。