ある災害が労災と認定されるには、業務遂行性を前提に、業務起因性があることが必要です。災害の中には、原因がわからないというケースが存在します。そのような場合、労災と認定されることはないのでしょうか?
原因不明の災害の労災認定の基本的な考え方
災害の発生原因が不明な場合、まずは、間接的な事実関係等に基づいて、経験則上最も合理的な説明のできる推論を構築します。そして、災害と業務との間に、業務起因性が認められれば、労災と認定されます。
この推論において、業務起因性の有無が、どちらにも等しく推論できる場合、業務起因性はないと判断されます。なぜなら、業務起因性があることは労働者に立証責任があるからです。つまり、労働者が立証できない事実は、ないものとして扱われるからです。
死因が不明な場合の労災認定
上記の考え方は、災害の発生原因が不明な場合の考え方です。
死因が医学的に不明な場合は、死亡と業務との間の因果関係を説明することができません。したがって、業務起因性を推論できる余地はないとされています。
死亡の推定と労災の認定
労働者が死亡した場合、各種法律に従って、特別に法律関係が処理されることがあります。各種法律による以下の取扱いがなされた場合、労働者の生死が不明又は行方不明となった際・死亡したと認められる際に、業務遂行性があったと推定される場合は、業務起因性について反証がない限り、労災と認定されます。
失踪宣告
ある人の生死が7年間不明な場合、利害関係人の請求により家庭裁判所が6か月以上の公示催告をした上で、失踪宣告を行います(民法30条1項)。失踪宣告がなされた場合、失踪期間の満了日の午後12時に死亡したとみなされます(民法31条)。
死亡の推定
船舶の沈没・転覆・滅失・行方不明や航空機の墜落・滅失・行方不明になった際に現に船舶・航空機に乗っていた労働者の生死が3か月間不明である等の場合、労災保険の遺族補償給付の支給については船舶・航空機の沈没等により行方不明者なった日に、その労働者は死亡したものとみなされます(労災保険法10条)。
死亡の認定
天変地異等によって死亡したことが明らかである者について、死体の確認ができない場合、所轄行政庁が死亡を認定し、市町村長に報告することで死亡の取扱いがなされます(戸籍法89条)。