従業員が過労死した事案で会社役員の損害賠償責任を認めた裁判例を紹介します。

大庄事件(大阪高裁平成23年5月25日判決)

 居酒屋店舗で勤務していた労働者が急性左心機能不全により死亡したため,死亡原因は会社での長時間労働にあるとして,会社と取締役らに対し,損害賠償を求めた事案です。

裁判所の判断

 取締役は,会社に対する善管注意義務として,会社が使用者としての安全配慮義務に反して,労働者の生命,健康を損なう事態を招くことのないよう注意する義務を負い,これを懈怠して労働者に損害を与えた場合には会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当である。

 人事管理部の上部組織である管理本部長であった控訴人Y5や店舗本部長であった控訴人Y3,店舗本部の下部組織である第一支社長であった控訴人Y4は,a店における労働者の労働状況を把握しうる組織上の役職者であって,現実の労働者の労働状況を認識することが十分に容易な立場にあったものであるし,その認識をもとに,担当業務を執行し,また,取締役会を構成する一員として取締役会での議論を通して,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができる。また,控訴人Y2も控訴人会社の業務を執行する代表取締役として,同様の義務を負っていたものということができる。しかるに,控訴人取締役らが,控訴会社をして,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築させ,長時間勤務による過重労働を抑制させる措置をとらせていたとは認められない。

 控訴人会社は,給与体系として,基本給の中に時間外労働80時間分を組み込んでいたため,そのような給与体系の下で恒常的に1か月80時間を超える時間外労働に従事する者が多数出現しがちであった。また,控訴人会社の三六協定においては,時間外労働の延長を行う特別の事情としてイベント商戦に伴う業務の繁忙の対応と予算決算業務が記載されていたが,現実にはそのような特別事情とは無関係に恒常的に三六協定に定める時間外労働を超える時間外労働がなされていた。現に,a店においては,控訴人会社の他の店舗と比べて繁忙な店舗ではなく社員の負担も平均的な店舗であったにもかかわらず,繁忙期でもなかったAの勤務期間中に店長を含む多数の従業員の長時間労働が恒常化していたのであって,このことからすれば同様の事態は控訴人会社の他店舗においても惹起していたものと推認される。そしてこのような全社的な従業員の長時間労働については,控訴人取締役らは認識していたか,極めて容易に認識できたと考えられる(なお,全国展開している控訴人会社においては,全国的に組織化され人事管理部や店舗本部などによる監督体制が執られていたのであるから,各店舗における労働者の勤務態勢などについては全国的にある程度平準化されていたものと考えられる。)。

 Aの入社後研修においてもI部長が給与の説明に当たり1か月300時間の労働時間を例にあげていた状況であったし,社員に配布されていた社員心得である「Y1魂・Y1商法覚書」では,出勤は30分前,退社は30分後にすることが強調されているが,働き過ぎを避ける健康管理の必要性には何ら触れられていない。また日々のワークスケジュールを作ることで,実質的に従業員の具体的勤務時間を決定しうる店長に配布されている店舗管理マニュアルには,効率の良い人員配置が必要であることが記載されているが,社員の長時間労働の抑制に関する記載は全く存在していない。人事管理部においても勤務時間のチェックは任務に入っておらず,人事担当者による新入社員の個別面談においても,長時間労働の抑制に関して点検を行ったことを認めるべき証拠はない。

 以上のとおり,控訴人取締役らは,悪意又は重大な過失により,会社が行うべき労働者の生命・健康を損なうことがないような体制の構築と長時間労働の是正方策の実行に関して任務懈怠があったことは明らかであり,その結果Aの死亡という結果を招いたのであるから,会社法429条1項に基づく責任を負うというべきである。

 当裁判所は,控訴人会社の安全配慮義務違反の内容として給与体系や三六協定の状況のみを取り上げているものではなく,控訴人会社の労働者の至高の法益である生命・健康の重大さに鑑みて,これにより高い価値を置くべきであると考慮するものであって,控訴人会社において現実に全社的かつ恒常的に存在していた社員の長時間労働について,これを抑制する措置がとられていなかったことをもって安全配慮義務違反と判断しており,控訴人取締役らの責任についても,現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず,控訴人会社にこれを放置させ是正させるための措置を取らせていなかったことをもって善管注意義務違反があると判断するものである。

 控訴人Y5は管理本部長,控訴人Y3は店舗本部長,控訴人Y4は支社長であって,業務執行全般を行う代表取締役ではないものの,Aの勤務実態を容易に認識しうる立場にあるのであるから,控訴人会社の労働者の極めて重大な法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは明らかであり,この点の義務懈怠において悪意又は重過失が認められる。そして,控訴人Y2は代表取締役であり,自ら業務執行全般を担当する権限がある上,仮に過重労働の抑制等の事項については他の控訴人らに任せていたとしても,それによって自らの注意義務を免れることができないことは明らかである。また,人件費が営業費用の大きな部分を占める外食産業においては,会社で稼働する労働者をいかに有効に活用し,その持てる力を最大限に引き出していくかという点が経営における最大の関心事の一つになっていると考えられるところ,自社の労働者の勤務実態について控訴人取締役らが極めて深い関心を寄せるであろうことは当然のことであって,責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり,この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。