安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求に際して、弁護士費用を請求できるか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成24年2月24日判決
労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため、弁護士に依頼して訴訟を提起した事案です。
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)では、弁護士費用が損害として認められています。
債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)でも、不法行為と同様に、弁護士費用を損害として認められるか?が問題になりました。
なお、ここでいう弁護士費用は、依頼者が実際に弁護士に支払う報酬等ではありません。
事案の概要
被上告人は、屑類製鋼原料の売買等を目的とする株式会社である。上告人は、平成13年3月に被上告人に雇用され、平成18年4月24日頃から、チタン事業部に所属していた。
上告人は、平成18年11月22日、チタン事業部の工場に設置されていた400tプレス機械を操作し、チタン材のプレス作業に従事していたところ、本件プレス機に両手を挟まれ、両手指挫滅創の傷害を負い、両手の親指を除く各4指を失うという事故に遭った。
原審の判断
原審は、被上告人は、上告人の使用者として、労働契約上、本件プレス機に安全装置を設けて作業者の手がプレス板に挟まれる事故を確実に回避する措置を採るべき義務及び本件プレス機を使用する際の具体的な注意を上告人に与えるべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、その結果、上記事故が発生したことを肯定しています。
その上で、1,876万5,436円及び遅延損害金の限度で債務不履行に基づく損害賠償請求を認容したものの、弁護士費用の請求は認めませんでした。
最高裁の判断
最高裁は、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の場合も弁護士費用を損害として認めると判断しました。債務不履行に基づく損害賠償請求の中でも安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は、訴訟での主張・立証が不法行為に基づく損害賠償請求とほぼ同じということから、弁護士費用を損害として認めました。つまり、最高裁は、債務不履行に基づく損害賠償請求全般で、弁護士費用を損害として認めると判断しているわけではありません。
労働者が、就労中の事故等につき、使用者に対し、その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様、その労働者において、具体的事案に応じ、損害の発生及びその額のみならず、使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって、労働者が主張立証すべき事実は、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権である。
したがって、労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。