業務上腰痛の労災認定について災害性腰痛と非災害性腰痛に分けて、取上げました。業務上腰痛を発症したことについて会社に対する損害賠償請求を取上げます。
安全配慮義務の根拠法令はない
会社に損害賠償を請求するには、会社に安全配慮義務違反があったことが要件です。安全配慮義務の内容については、法令の規定等が参考になります。
安全配慮義務について(労災の損害賠償)
労災の発生について、使用者である会社に安全配慮義務違反がある場合、労働者は会社に対し損害賠償請求できます。安全配慮義務違反について解説します。
業務上腰痛に関して規定した法令は、存在しません。一般規定としては、労働安全衛生法24条が、作業行動から生じる労働災害を防止する義務を規定しています。
安衛法28条の2は、作業行動に起因する有害性等を調査し、その結果に基づき労働者の健康障害を防止する必要な措置を講じる義務を規定しています(リスクアセスメント)。この調査の対象に、計器監視、精密工作、重量物取扱い等の重筋作業、作業姿勢・作業態様によって発生する腰痛・頚腕症候群が含まれるとされています。
したがって、安衛法28条の2が、安全配慮義務の具体的内容に取り込まれていくことになると考えられます。
法令ではありませんが、厚労省が、「職場における腰痛予防対策の推進について(平成25年6月18日基発第547号)」という通達を出しています。この通達は、平成6年の通達を踏まえたものです。通達の内容は、安全配慮義務の具体的内容を検討する上で参考になると考えられます。
裁判所が認定した安全配慮義務の具体的内容
実際に裁判所が、安全配慮義務をどのように認定したのか?いくつか裁判例を見てましょう。裁判所は、厚労省の通達の内容を安全配慮義務の具体的内容に取り込んでいると考えられます。
信濃運送事件(長野地裁平成19年12月4日判決)
厚労省の「職場における腰痛予防対策の推進について」の違反が直ちに安全配慮義務違反となるものではないが、趣旨・目的からいって、違反の程度が著しかったり多項目にわたる場合は安全配慮義務違反になると判断しています。
判決の詳細は、業務上腰痛の損害賠償②(労災の損害賠償)を参照
おきぎんビジネスサービス事件(那覇地裁平成18年4月20日判決)
上記の通達について、安全配慮義務の内容を考える際の基準となると判断しています。
判決の詳細は、業務上腰痛の損害賠償③(労災の損害賠償)を参照
業務上腰痛の損害賠償③(労災の損害賠償)
重量物を持ち運ぶ業務に従事していた労働者が、腰椎椎間板症等の傷害を負った事案で、会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例を紹介します。
名古屋埠頭事件(名古屋地裁平成2年4月27日判決)
事後においても、腰椎症にり患し職場復帰した労働者に対し、その病勢が憎悪することのないように措置すべき義務があったと発症と憎悪のそれぞれについて安全配慮義務違反を認めています。
判決の詳細は、業務上腰痛の損害賠償④(労災の損害賠償)を参照
事前の安全配慮義務の具体的内容
裁判所が認定した事前の安全配慮義務の具体的内容としては、次のようなものがあります。
事後の安全配慮義務の具体的内容
裁判所が認定した事後の安全配慮義務の具体的内容としては、次のようなものがあります。