通勤災害は業務上災害ではありませんが、労災保険では、保護の対象となります(通勤災害と労災参照)。副業をしている等の二重就業者の通勤災害を取り上げます。
通勤災害の保護の拡大
平成17年の改正により、労災保険の通勤災害の対象が拡大しました。改正前は、労災保険法は、「住居と就業の場所との間の往復」を移動としていました。改正後は、「就業の場所から他の就業の場所への移動」が追加されました(労災保険法7条2項2号)。
二重就業者の保護
かつては、通勤災害は、住居と就業場所への往復に限られていました。そのため、労働者が自宅から第1の職場(事業場)へ出勤し、終業後、第2の職場(事業場)へ移動するという二重就業者の場合、この職場間の移動は、通勤災害の対象外でした。
しかし、社会情勢の変化に伴い、職場(事業場)間を移動する二重就業者が増加したことで、前述のように、法改正につながりました。
兼業禁止規定と通勤災害
会社によっては、就業規則等で労働者の副業を禁止しているところがあります。会社の規定に違反して副業している労働者について、事業場間の移動が通勤災害の対象になるのか?という疑問があります。
厚労省は、民事上の問題を公的保険である労災保険の保険給付に当たって、考慮することは疑問があるとして、労災保険の通勤災害の認定においては、特段考慮しないという見解を表明しています。
労災保険関係はどうなる?
第1事業場から第2事業場間の移動中に災害に遭った場合、どちらの事業場の労災保険を使用するのか?という問題があります。
第1の事業場の終業後に、次の仕事のために第2事業場への移動であることから、第2事業場での労務提供に不可欠な移動であると考えられます。そのため、労災保険関係は、第2事業場の保険関係によって処理されます。
給付基礎日額の算定
労災保険の各種給付の基礎となる給付基礎日額は、労基法12条の平均賃金に相当する金額です(給付基礎日額参照)。二重就業者の事業場間の移動中の通勤災害の場合、どちらの事業場から支払われる賃金を基に給付基礎日額を算定するのか?という問題があります。
前述のとおり、労災保険関係は、第2の事業場の保険関係によって処理されます。給付基礎日額の算定も第2事業場で支払われる賃金を基に算定します。
二重就業者は、通常、複数の仕事での給与をもとに生計を維持していると考えられます。ところが、第2の事業場の労災保険関係のみで処理されることから、第2事業場から支払われる賃金が副業で低額である場合、通勤災害で失った稼働能力の喪失と労災保険から填補される実際の保険給付が見合わないという問題が生じてしまいます。
複数事業労働者の労災保険給付
かつては、前述のような問題がありました。しかし、労災保険法が改正され、複数事業労働者の労災保険給付においては、基礎給付日額の算定において、それぞれの給料を合算することになりました(複数事業労働者の労災保険給付参照)。2020年9月1日以降は、この問題は解消されます。