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労災の業務起因性に関する裁判例


労災の認定に際し、業務起因性について判断した裁判例を紹介します。

尼崎労基署長(園田競馬場)事件(大阪高裁平成24年12月25日判決)

 競馬場で馬券を購入する客に対し、マークシートの記入の仕方などを案内する女性担当係員(マークレディ)が、勤務中にストーカ化した同じ職場の男性警備員に刺殺された事案です。

 業務起因性が認められるか?が争われました(他人による暴行と労災の認定も参照)。

事案の概要

 b競馬場において、マークレディとして稼働していた亡Cが、b競馬場で警備員として勤務していたDに殺害されたことにつき、Cの遺族である控訴人らが、本件災害がCの業務に起因するものであると主張して、労災保険法に基づく遺族補償年金と遺族補償年金前払一時金及び葬祭料とをそれぞれ不支給とした平成20年3月31日付けの尼崎労働基準監督署長の各処分の取消しを求めた。

 Cは、平成18年1月17日午前9時25分ころ、マークレディとしてb競馬場に出勤したところ、b競馬場○○出入口前において、同競馬場の警備員のDに、殺意をもって、所携の出刃包丁で、両腕及び背部等を多数回突き刺され、同日午後1時12分ころ、搬送先の兵庫県西宮市のf病院において、背部多発刺切創等の傷害に基づく出血性ショックにより死亡した。

裁判所の判断

 原審は、業務起因性を認めませんでした。しかし、控訴審の大阪高裁は、業務起因性を認めました。

 労災保険法7条1項1号は、「労働者の業務上の負傷…」につき保険給付の対象とする旨定めており、この「業務上の負傷」とは、それが業務遂行中に(業務遂行性)、かつ、業務に起因して(業務起因性)発生したものであることをいうものと解される。

 そして、労働者が業務に起因して負傷又は疾病を生じた場合とは、業務と負傷又は疾病との間に相当因果関係があることが必要であり、上記相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである。

 このような観点からすると、労働者(被災者)が業務遂行中に、同僚あるいは部下からの暴行という災害により死傷した場合には、当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り、当該暴行は労働者(被災者)の業務に内在または随伴する危険が現実化したものと評価できるのが通常であるから、当該暴行が、労働者(被災者)との私的怨恨または労働者(被災者)による職務上の限度を超えた挑発的行為もしくは侮辱的行為によって生じたものであるなど、もはや労働者(被災者)の業務とは関連しない事由によって発生したものであると認められる場合を除いては、当該暴行は業務に内在または随伴する危険が現実化したものであるとして、業務起因性を認めるのが相当である。

 そして、その判断に当たっては、暴行が発生した経緯、労働者(被災者)と加害者との間の私的怨恨の有無、労働者(被災者)の職務の内容や性質(他人の反発や恨みを買いやすいものであるか否か。)、暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的・場所的関係などが考慮されるべきである。

 本件災害は、Cの所定勤務開始時間(午前9時45分)より前の午前9時25分ころに生じたものであるが、Cの勤務場所の施設内において、Cが出勤後始業準備に着手するまでの間に生じたものであるから、Cが、事業主の支配下にあった、Cの業務遂行中に発生した災害であることは明らかである。

 マークレディは、「18歳から28歳ぐらいまでの女性に限るものとし、明朗かつ闊達に業務に取り組むとともに、来場者に対して不快、不親切な印象を与えないように努める」とされており、その主たる理由は、マークレディの主たる職種が来場者に直接指導する業務であり、女性よりはるかに多い男性の来場者に良い印象を持ってもらうことにあった。

 これを言い換えれば、マークレディは、競馬場のマスコットガール的存在として、男性から見て魅力を感じさせる女性(一般的には容姿端麗な女性)に限定されていたといえる。

 警備員は、マークレディとは逆に、原則は男性とされており、しかもその年齢も一般に女性に対して性的関心を有している年齢(満18歳以上66歳未満)に限られている。

 マークレディと警備員とは、仕事上の指揮命令関係は異にするものの、実質的には、共働して業務に当たり(とりわけ投票所付近では、1対1になることも多い。)、相互に一定の私語も交わすような同僚労働者と同等の関係にあったものというべきである(そもそも、私語が禁止されていたということ自体、放置しておくと、マークレディと警備員が私語に夢中になって仕事が疎かになることなどを懸念して、禁止されたものと推認できる。)。

 男性警備員が、来場者や警備員を含めて圧倒的に男性が多いb競馬場において、近隣で1対1の関係にもなり得る数少ない魅力的な女性であるマークレディに対して、恋愛感情を抱くことも決してないとはいえず、その結果、男性警備員が良識を失い、ストーカー的行動を引き起こすことも、全く予想できないわけではない。

 そして、これは、前記のそれぞれの採用条件や配置状況等に照らすと、単なる同僚労働者間の恋愛のもつれとは質的に異なっており、いわばマークレディとしての職務に内在する危険性に基づくものであると評価するのが相当である。

 現に、本件組合も、マークレディと来場者との間のセクハラ行為を巡るトラブルやマークレディと警備員との間のセクハラ発言を巡るトラブルの存在を把握している(なお、判明している件数は少ないものの、このようなトラブルは性質上表沙汰にならないものも少なくないものと考えられる。)。

 Dは、平成18年1月9日、Cに対する憎悪を感じ、これに基づいて、C及び本件副隊長に対する漠然とした殺意を抱き、同月11日又は翌12日ころに、本件副隊長から本件苦情の申出を伝えられたことを契機として、Cを殺害するという気持ちに更に拍車がかかり具体化していって、Cの殺害に及んだものと認められる。

 そして、本件苦情の申出は、その内容からして、職場環境整備上、Dの勤務態度を是正するためにCの業務に関連して行われたものであり、Dは、本件副隊長から本件苦情を伝えられたことによって、具体的な殺意に発展していったのであるから、Dのした加害行為はCの業務に関連しているといえる。

 Cは、本件苦情の申出に先立ち、Dから、5分間隔で電話をかけられたり、1時間置きに電話をかけられたりするなど、明らかにストーカー被害に遭っていて、平成18年の年明けには、Dからの電話につき、自らの携帯電話に着信拒否の設定をしていること、本件副隊長は、Cが自警本部に直接苦情を述べていれば、本件副隊長らが自警本部から注意されることになるので、自警本部ではなく、Cが直接本件副隊長に苦情の申出をしてくれてよかった(助かった)と考えていたこと、本件副隊長は、Cが、そのころ、マークレディのチーフ(リーダー)にも同趣旨の苦情を述べていることを知っていたことなどからすれば、Cの発言が表面上はさほど深刻なものに聞こえなかったとしても、Cが真剣に苦情の申出をしていたことは明白であり、本件副隊長もこれを職場環境整備上の苦情の申出であると理解して、Dを注意したことが認められる。

 Dは、私的感情に基づいて本件災害を惹起したものではある。しかしながら、本件の場合、そもそも、マークレディの職務自体、警備員との間の恋愛感情のもつれに基づくストーカー的被害の危険性を内在していると評価できる。

 CとDとの間には業務を離れた付合いは全くなく(CがDと私語を交わしたのは、職場において、円滑に職務を遂行するための人間関係を維持するためにすぎず、業務を離れた付合いとはいえない。)、DがCに対して憎悪の念を抱き、最終的には殺意を抱いたのは、CがDのストーカー的行動に対する防衛的行動として行った、本件苦情の申出などをDが逆恨みしたことにあり、本件苦情の申出自体、職場環境整備上の苦情の申出と評価できること、本件災害におけるDの暴行は、本件苦情の申出と時間的、場所的に近接したところで行われていることなどからすると、Dの加害行為がCの業務とは関係がないCとDとの私的怨恨、またはCの職務上の限度を超えた挑発的行為もしくは侮辱的行為、あるいは、CとDとの喧嘩闘争によって生じたものと認めることはできず、むしろ、本件苦情の申出というCの業務と密接に関連する行為に関連して、その業務に内在するまたは随伴する危険が現実化して発生したものと認めるのが相当である。

 したがって、本件災害は、Cの業務に起因するものと認められる。


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