労災事故で使用者に損害賠償請求できる場合の休業損害と賃金請求権の関係を取上げます。
休業損害を請求できる
労災事故(労働災害)の発生について、使用者の安全配慮義務違反がある場合、労働者は、使用者に対して損害賠償請求できます。労災事故のために労働者が仕事を休んだ場合、損害として休業損害を請求することができます。
労災で休業中は賃金請求権を失わない?
労災事故が使用者の安全配慮義務違反によって生じた場合は、使用者の帰責事由によって、労働者の労務提供義務が履行不能になったと考えられます。この場合、労働者は民法536条2項により、賃金請求権を失いません。
※詳しくは、休業中の賃金参照
東芝うつ病事件(最高裁平成26年3月24日判決)の原審(東京高裁平成23年2月23日判決)は、賃金請求権と休業損害で任用される金額の比較を行い、労働者に有利な休業損害に基づく金額を認容しています。
休業損害と賃金請求権の比較
上記のように、労災事故の発生に使用者の安全配慮義務違反があった場合、労働者は、休業損害と賃金請求権を選択的に請求することができます。次のような違いがあります。
基礎となる賃金の額
賃金請求権では、残業代や賞与を基礎となる賃金に含められないことが多いです。休業損害の場合は、過去の実績に基づき、残業代や賞与が基礎となる賃金に含まれることが多いといえます。
過失相殺の有無
労災事故の発生について労働者にも過失がある場合があります。この場合、損害賠償である休業損害では過失相殺がなされます。
賃金請求権の場合、賃金全額支払いの原則(労基法24条1項)があるので、過失相殺によって減額されることはありません。
損益相殺の有無
休業損害の場合は、労災保険から給付を受けている場合は、損害額から控除されます。
損害賠償からの労災保険の控除
労災事故について、会社に損害賠償請求ができる場合、受給した労災保険の給付は損害額から控除されます。労災保険の給付をどのように控除するのか?を解説します。
賃金請求権は、損益相殺されることはありません。ただし、労災保険等の給付は不当利得(民法703条)となるので、返還しなければなりません。
消滅時効
賃金請求権の消滅時効は従前は2年でしたが、労基法改正で3年間になりました。休業損害は、民法の改正で、債務不履行構成・不法行為構成ともに、5年間です。
※不法行為と債務不履行参照。
なお、賃金請求権は時効で消滅しているのに、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を認めると、労基法が短期の消滅時効を認めた趣旨を趣旨を没却するとして、2年の消滅時効を認めた裁判例があります(大阪地裁平成25年5月25日判決)。